S-2000は往年のスピードを代表するカッティングの一つで、襟付きのハイネックと背中をすっぽりと覆うジッパーバックが特徴のモデル。
カタログ説明によると「水の侵入を防ぎ速さに対する積極的な姿勢をアピールするスピード独自のカッティング」と紹介されている。
ハイネックとジッパーバックは抜群のフィット感で、競泳水着とは思えない着心地を与える。
S-2000の詳しい登場時期は残念ながら不明だが、
スピードの資料[*1]によると1992年となっており、
同年開催されたバルセロナ五輪で
ジャネット・エバンス選手がS-2000を着用して出場した映像が残されている。
素材はアクアスペックで登場した後、アクアブレード→アクアブレードⅡと時代に合わせて進化していく。
そしてS-2000を紹介する上で忘れてはならないのが、1997年
[*2]に登場した「ヴォルテックス・コントローラー」だ。
それまでの競泳水着は「表面摩擦抵抗の軽減」に絞って考えられてきたが、表面摩擦抵抗はスイマーにかかる全抵抗の約10%であることがわかってきた。
残りの90%を占めるのは形状による抵抗で、これを削減するために開発されたのが「ヴォルテックス・コントローラー」である。
胸部分に取り付けられた126個のシリコン突起と、4つのブロックに分けて配列されたスリットの相乗効果で縦渦を発生させ、
その縦渦効果によって水着表面の水流の剥離を抑え、スイマーが受ける全抵抗の1.5%を削減したという。
ヴォルテックス・コントローラーはS-2000とV-2000で採用された。
S-2000は2000年登場の新シリーズ「ファーストスキン」にその座を明け渡すかのように、2001年のカタログを最後にラインナップから姿を消したようだ。
それでもS-2000はハイネックという特殊なスタイルが水球(ウォーターポロ)用水着に適しており、厚手で破れにくい素材に変更した上で細々と生産(おそらく受注生産)が続けられた。
スピードのウォーターポロは、競泳水着のカッティングにラバーのような独特な光沢をした素材を組合せており、
エナメルボンデージを連想させるフェティッシュな見た目に多くのマニアが飛び付いた。
その後、2005年に新素材アクアブレードΣと共にS-2000は復活を果たす。
「胸元を気にせず泳げる」というカタログ説明の通り、胸パッド装着用のフック受けが付けられ、
大胆なハイレグカットではなく、安心して着用できるミドルカットの「S-2000M」として登場した。
これがS-2000シリーズ最後のモデルとなる。
本家スピードによるS-2000生産終了後も独特のハイネックスタイルは高い人気があり、
「REALIZE」など後発のファッション系競泳水着でもこのスタイルが多く採用されている。
S-2000は現在も影響を与え続ける、偉大なモデルと言えよう。
素材についてはそれぞれ
「
アクアスペック」
「
アクアブレード」の項で紹介する。
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アクアブレード、S-2000の襟後ろの処理
襟はV字形の処理となり、ジッパーの上端は襟の付け根のラインまでとなる
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アクアブレードⅡ、S-2000の襟後ろの処理
素材のみの変更で、襟後ろの処理は特に変更されていない
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アクアブレードΣ、S-2000Mの襟後ろの処理
形状の変更があり、襟の上までジッパーが上げられるようになった
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ヴォルテックスコントローラー
126の突起が人工的な水流の乱れを起し、水流の剥離を遅らせることで抵抗を軽減する
4つのブロックに配列されたスリットの間にもタテ渦を発生させ、形状抵抗を軽減する
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ヴォルテックスコントローラーの拡大写真
S-2000の他、V-2000にも採用された
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ヒップに入った「S2000」と「vortex controller」のプリント
機能を周囲にアピールする競泳水着は珍しい
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S-2000の水球用水着(ウォーターポロ)
ラバー素材となり独特の光沢を放つ
このため着心地も競泳用のS-2000とは異なる
(過去所持品、古い画像のため低画質なのはご容赦ください)
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襟後ろの処理は、襟の上までジッパーが上がる仕様になっている
素材のせいもあり、着用時は強い拘束感がある
劣化すると素材にひび割れが生じるため、長期保管が困難な水着の一つ
(過去所持品、古い画像のため低画質なのはご容赦ください)
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